
「なんてへそ曲がりなネーミングなんだ」と思われても仕方ない。
「下層」に位置する「音楽家」の「非同盟」なのだから。
これは、19世紀終わりから20世紀初めに活躍したフランスの作曲家、エリック・サティが晩年に使っていたレターヘッドに書かれていたものである(上図)。
この、エリック・サティという作曲家は非常に面白い人物だ。
様々な逸話を持ち、BGMの先駆けである「音楽の実用性の抽出」を試み、芸術と生活の境界線に歩み出た作曲家である。
画家たちからは「目を持った唯一の音楽家」と言われ、カリグラフィー(西洋の書道)の達人でもあった。芸術品と呼べるほど美しい絵画のような楽譜を書き、数多くの独特な文章や詩が残っている。
自分しか所属しない宗教をつくり、自分を批判する批評家の悪口を丁寧な文体、書体にて制作し、自費で機関紙として発行した。
サティからの手紙を受け取った批評家は、自分の悪口が書かれているにもかかわらず、そのあまりの美しい書体に魅了され、額に入れ自分のオフィスに飾ったという。
また、地域活動で小さなグループを作ってはすぐにグループから外れ、枠にはめられることにおいて異常な嫌悪感を持つ人物であった。
このように風変わりな作曲家であるサティが、晩年に自分を表すために名乗っていたのがこの「下層音楽家非同盟」である。
「芸術の中には、どんな奴隷制度もあってはならない」「ひとりで歩き給え。私と反対のことをやるんだ。若いのだから、誰のいうこともきいてはならないよ」と自分を崇拝する音楽家たちに言い続けた。
私は、いち音楽家の端くれとして、自分を追従することを拒み続けたエリック・サティを追いかける。純粋でへそ曲がりなこの100年前の音楽家を追うことで、音楽の新たな世界が開かれると信じているからである。
誤解し続けられてきたこの作曲家について、真剣に分析し、読者に理解していただこうと思っている。これが、使命であると思って生きている。
その他、エリック・サティに限らず、自分にとって面白いとおもったもの、研究の資料集めを兼ねて、発信していこうと思う。
サティ自身だけが所属するために作った組織の名を借りて。
下層音楽家非同盟 いずみ