私が、今まで読んだ本の中で一番好きな本は『脳の中の幽霊』(1998)だ。
オカルトチックなものではない。人間の脳に関する一般書だ。
この本は、私が芸大図書館で働き始めた2016年に、仕事をしている最中に返却の本として出会っている。かなり気になってパラパラとめくって、中身が絶対に面白いという確信を得たが、いつか読もうと返却ワゴンの上に乗せて以来、読む機会がなかった。
時は過ぎ、2019年に『脳の中の幽霊』を読むチャンスはやってきた。
鹿児島で2泊3日の演奏の仕事が終わり、明日帰るとなった時に突然来た台風のため飛行機が飛ばなくなった。もう一泊を余儀なくされ、東京での仕事もキャンセル。
まあ、こんなこともあると思い、ゆっくり美味しいものを食べて映画でも観て過ごそうかと思っていた。
しかしそういう時に限って、観たい映画がない。
映画館には行かず、近くの本屋に行って、脳の中の幽霊のことをふと思い出し、探してみた。不思議なもので、すぐに見つかった。
ホテルに帰り、ひたすら本を読んで一日過ごした。本当に充実した時間だった。明日の飛行機出発まで、何の予定もなく、本を読んでいられるのだ。
『脳の中の幽霊』は本当にめちゃくちゃに面白く、死ぬほど知的好奇心をくすぐられ興奮させる本だった。
内容は、インド出身でカリフォルニア大学サンディエゴ校の脳認知センターの教授であるラマチャンドラン博士が臨床で出会った、奇妙な人たち、例えば、幻肢という症状。
何年も何十年も前に失った腕や脚のことを、脳が忘れないでいるために幽霊のような幻肢(幻の腕や脚)がいつまでも強固に存在し続けて、しばしば患者を苦しめる。
正常な状態の幻であれば良いが、それが正常な感覚や動きから切り離されているために、変形し激しい痛みを伴うことがあるのだ。
実在しない腕や脚の痛みを訴える患者に、「それは存在しない」と言っても何の助けにもならない。むしろ治療を一層困難なものにする。
幻の掌に、恐ろしい力で食い込む幻の指。幻の指を開かせることができないために、残った腕をどんどん短く切断していたり、脊髄の痛覚路や感覚路を遮断したり、脳の痛みを感じる部分を破壊したりするが、幻肢の痛みは無くなることはない。
そして、このような患者は「気が狂った」と思われ、精神病棟へうつされることも少なくなかった(以前、知り合った身体についてスポーツトレーナーの分野をアメリカで専門に勉強された方に質問したときに、未だにそのように答えられた方がいらっしゃって、私は内心ガッカリした)。
また、脳の損傷で数を数えられなくなった人が、おおよそ数についての概念がないと分からないジョークに笑うことができたり、パラノイアについてや、自分の肉親を見ても頑なにそっくりな別人だと言って、家族と認めようとしない人。
一言で言うと、この世の奇怪な事を、「頭がおかしくなった」という言葉で片付けるのではなく、しっかりと患者の証言に向き合い、解決していく様、ラマチャンドラン博士のもとに来る患者の持つ不思議な世界が面白くて、納得させられる。
後日、まとめ記事を作っていきたいと思います!
下層音楽家非同盟 いずみ