「どんな分野でも、いちばん奇妙なことを探し出して、それを探究するといい」

アメリカの物理学者ジョン・アーチボルド・ホイラーの言葉だ。

最近紹介した『脳のなかの幽霊』の中で引用されているフレーズだ。

現実は小説より奇なりとはよく言ったもので、不思議だが、実際に現実としてあることは、多い。

これらのエピソードは、なぜなのかは分からないが、臨床医が実際に患者を前にして、集まったデータである。

「ばち指」(30頁)と呼ばれるものは、肺がんの代名詞にもなっているが皆さんはご存知だろうか?指を横から見た時、指と爪の生え際の角度が通常は180度未満だが、ばち指の人は180度以上になる。これは、外科医が癌を切除した途端、手術台の上でたちまち消えてしまうそう。
即座に爪の生え方の角度が変わってしまうのは不思議すぎる。

「パーキンソン病の患者は特徴的な足をひきづる歩き方をする」(31頁)。
その医者は、パーキンソン病患者の診断をするときは、目を閉じて足音で診断するように、と強調していたそう。なぜ、このような歩き方になるのかは分かっていない。

また、匂いで病名を判定することができるらしい(30頁)。特定の疾患のある患者から決まった匂いがするのだそう。
糖尿病性ケトン患者→マニキュア液のような甘い香り
チフス患者→焼き立てのパンの香り
腺病→気の抜けたビールのような香り
風疹→むしったばかりの鶏の羽のような匂い
肺膿瘍→腐敗臭
肝臓病患者→ガラス洗浄剤のようなアンモニア臭
何かしらの化学物質が出ているのだろうか?

プラシーボ効果と言うものを、皆さんはご存知だろうか?
ある治療が有効だと信じるだけで、健康状態が改善される効果が出るというものだ。

プラシーボ効果については、統計も取られていて、科学的に信用に足る数字が出ているそうだ。

食べ物を嫌悪するマウスの実験で、サッカリン(人工甘味料)とシクロフォスファミドという吐き気を催す薬を混ぜたものをマウスに与え吐き気を催させ、次にサッカリンのみを与えて吐き気の兆候があるかを調べた。
マウスは予想通りサッカリンの入った食べ物への嫌悪を示した。マウスは学習して、【サッカリンの人工甘味料の味=吐き気】ということを学習したのだろう。

しかし、驚くことに、マウスはありとあらゆる感染症を引き起こし重病になったのだ。

…そう、シクロフォスファミドには吐き気を催す効果の他に、あらゆる免疫系を大きく抑制することでも知られている。

だが、マウスには最初のみシクロフォスファミドを与えただけで、あとは人工甘味料のサッカリンだけを与えたのに、シクロフォスファミドの効果が現れたのだ。そして、実際にあらゆる感染症を引き起こし重病になった。

マウスには言葉が通じないが、このような結果から、様々な考察ができる。

一度学習されたことは、その周辺の情報と共に記憶されるということ。

また、私が特に興味深かったのは「多重人格障害」と言われる心身医学について(29頁、352頁)。
私もこんなものが存在するのか知らないし、そんな人に会ったことがないから分からないが、ここでは、臨床での記録を紹介している。
患者が違う人格になっているつもりでいるときに、実際に目が変化するのだそう。近視の人が正常視力になったり、青い目の人が茶色の目になり、血液の性質が人格とともに変化することもあるそう。片方の人物の時は血糖値が高くなり、もう片方の人物の時は低くなる。
片方の人格にはある物質にアレルギーがあるがもう片方にはない。
片方の人物には糖尿病があるがもう片方にはない。
こんな臨床でのデータが一定数集まっているというのだ。

同じ人物の、同じ体のはずなのに、それぞれの人格に違う声や抑揚、欲求、癖などまでは、演技として理解できるとしても、視力や目の色が実際に変わったり、免疫系まで変わってしまうと言うのには驚いた。

「心と身体を分けることは、人間の健康や病気や行動を理解する上で有益な概念ではないと認識すべき時が来ているのではないか。」

「科学の歴史には、最初は些細なこととして、あるいは怪しげなものとして無視されていた異常が、のちに根本的な重要性を持つと判明したケースがたくさんある。」

「こうした事実が目の前に並んでいるのに、なぜ西洋医学の臨床医たちは、心と体が直接に結びついていることを示す多数の顕著な例を無視し続けるのだろうか」

ラマチャンドラン博士は、インド人に生まれヒンドゥーの伝統の中で育ち、西洋医学の幅広い教育を受け、精神疾患や策士の研究を行ったからこそ、この誰もが退けている問題について真剣に考えているのだろう。

本当に面白い本なのだが、私の稚拙な解釈で面白くないと思われたくない。ぜひ、興味のある方は手にとって読んでみてください!

私は、これからも音楽界の謎であるエリック・サティの研究を続ける。

ジョン・アーチボルド・ホイラーの「どんな分野でも、いちばん奇妙なことを探し出して、それを探究するといい」という言葉に倣おうと思う。

下層音楽家非同盟 いずみ

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